フリアンとソフィアによる、音楽とアサードを楽しむ集い
Asado Musical by Julián Mourin & Sofía Urruti
何度も誘われていたのにいつもいけなかった。この招待を断ってまで、いったい今まで自分は何をしていたんだろう。アルゼンチンで活躍するシンガーソングライターであるフリアン・モウリンと奥さんのソフィア・ウルティに招きを頂き、彼の家で行われるアサード・ムシカル(音楽アサード)、つまりアサードを食べながら音楽を楽しもうというアルゼンチン音楽や料理好きには夢のような集まりに参加させてもらった。
ブエノスアイレス市内からバスで40分のマルティネスという郊外の街へ。都市の喧騒が嘘だったかのような緑と静寂が包んでいる。フリアンの自宅、その名もカサ・ジュピターはメキシコシティ南部のコヨアカンに位置するフリーダ・カーロのアトリエのように一面青く塗られた壁に囲まれている。家の周りには温暖な春の陽気を迎えて嬉々とした様子の花々や芝生が覆う。この場所に足を踏み入れて、空気を吸ってみて初めて彼の包んでくれるよな柔和な音楽が生まれる源がわかった気がする。
40人ほどの招待者はミュージシャン、俳優、画家といったアーティストがほとんど。主催者のフリアンがアサドールとして芝生に寝転がるゲストたちの間の潤滑油のように牛肉やチョリソを振り分けていくと、その日知り合ったばかりとは思えない親密な空気が流れていく。移民大国アルゼンチンらしい、誰をも受け入れる寛大さ、そして他者への強い好奇心が見て取れる瞬間だ。
春の麗らかな陽光がわずかに傾き始めると、どこからともなくフリアンと奥さんのソフィア・ウルティがギターをぽろりと響き始める。
続くイネ・マギーレ(ギター・ボーカル)&ダリア・マヒア(フルート)、ヘルマン・ウェルニケ(ギター)、フリアン・ミンカス(ギター・ボーカル)、フアン・コルドーネ(ギター・ボーカル)、イバン・チャウソフスキー(ギター・ボーカル)、イバン・サロモノフ(ギター・ボーカル)…といったブエノスアイレスの一線で活躍するアーティストが7組ほどリラックスしながら親密な音楽を奏でていく至極の時間となった。
日本式に考えればこれは「オフ」の時間なのだが、演奏をする時の眼差しは力強く、リラックスしつつも音楽に対して真摯に丁寧に取り組んでいて、決して手を抜いていない。音楽を奏でることとは即、生きることというこころざしが見て取れる。
音楽と食事が織り成す至高の時間を過ごすことができたのも、フリアンの誰からも愛される温かな人柄があってこそ。アルゼンチン音楽の豊穣さを感じる春の午後だった。
この日の主なゲストたちの音源はこちらから。