アルゼンチンのソーシャル・ディスタンス
パンデミック時における抱擁とキス
アルゼンチンでは多くのラテンアメリカ諸国と同様に、温かみのある抱擁や頬にキスをする挨拶をはじめ、ぎゅっと握手したり、腕を組んで、または手をつないで歩くカップルや、友人や家族や隣人たちとマテ茶を飲みながらおしゃべりをして過ごすなど、社会生活の中で触れ合いの行為が常に文化的に見受けられてきた。しかし突然、このCOVID19の世界的な感染拡大により、何の受け入れ準備期間もなく、すべてのアルゼンチン人が不慣れなソーシャル・ディスタンスと共に過ごす状況になった。
アルゼンチンやチリにおいて、この感染し易い新型ウイルスの最初の症例が報告されるや否や、状況が具体的に変化した。劇的な速さで世界を駆け巡った未知の感染症に対する無知と、人口が急落する可能性を前に、必然的に文化的な変革が強要され、この国の住民すべてを困惑させたのだった。
さてタンゴにおける抱擁といえば、魂の繋がりを生み出し、この踊りが好きな人々にとって魅力的な特徴のひとつとなっている。美しいダンスを享受しながら、二人の間で共生する調和へとステップが運ばれて行く。
だから実際、アルゼンチン人が1,5mの最低限の距離を保って、路上や公共交通機関の停留所、商店や銀行などの列に並んでいるの見るのは、本当に驚きである。もし偶然、知り合い同士の人たちを見かける際には、彼らが肘でお互いに挨拶を交わすのを見ることができる。それは身体的接触を諦めない、ひとつの方法なのである。
アルゼンチンでのソーシャル・ディスタンスは、ある種の困惑を引き起こしたものの、大多数の人々は仕方がなく受け入れるしかなかった。おそらく、それ以前とそれ以後で変化は避けられないだろうが、すべての人々が、この悪夢が終わることを心から待ち望んでいる。抱擁の文化の根を絶やすのは、アルゼンチン国民にとってはとても難しいことなのだから…。