Buenos Aires Y cuarto, menos cuarto No.3 ブエノスアイレスのカフェ
久しぶりに日本に帰国した際、久しぶりに会う友人とつもる話しもあるだろうとカフェに行く事にした。ところが、そのカフェがなかなか見つからない。フランチャイズのカフェは沢山あるが、いわゆる普通の喫茶店が本当に見つからない。むかし此処に・・・と思える場所に行ってみるのだが、ない! 店が入れ替わっている。ついついブエノスアイレスが恋しくなってしまった。
ブエノスアイレスの街には、かなりの数のカフェがある。街中では1ブロックに1軒の割でカフェがあるといっても過言ではない。殆どが建物の通りに面する部分の1階にあり、一目でカフェと分かる。日本でなかなか見つける事が出来なかったのは、おそらく雑居ビルの中に入っていて、外からではすぐには分からないせいもあったのだろう。その点、ブエノスアイレスのカフェは本当に分かりやすい。
カフェで過ごす時間は特別だ。珈琲を飲みながら物思いに耽ったり本を読んだり、時には友人と会ったり。私がブエノスアイレスに来た90年代には一杯が1〜 1.5 ペソだった珈琲も、インフレの影響で現在では 40〜50 ペソ。その頃のようなカフェのはしごは、今では難しくなってしまった。珈琲の豆はアルゼンチンではとれず、他国からの輸入品がほとんどのため、関税の関係もあって米ドルが上がると必然的に珈琲の値段も上がってしまうのは、仕方ない事なのかもしれないが、辛い!
大好きな古いカフェも、最近はどんどん姿を消し、かわりに米国系のチェーン店が破竹の勢いで増えている。決してチェーン店が嫌いという訳ではないけれど、老舗が次々と姿を消していくのは、なんとも残念で淋しい。
昔から続いているカフェでは、その道何十年という年期の入ったウエイターがいて、それだけで落ち着いた気分になれる。世界中のガイドブックにも載っているブエノスアイレスで最も古いカフェの一つが、1858年創業の「カフェ・トルトーニ」。映画に使われたり雑誌に紹介されたりで、今はほとんどいつも店の前に行列ができていて、入りづらくなってしまった。並んでまでカフェに入る気にはなれない。
1900年代半ば、ブエノスアイレスの街には、日本人の経営するカフェが数多くあり、どこも人気を博していたと聞いている。数年前、最後の日本人カフェが店を閉めたと新聞にとりあげられていた。その頃のカフェは、喫茶店というよりいわば社交場のようなもので、中ではライヴ演奏も行われていたらしい。
カフェで注文するのは、いつも決まって「カフェ・ソロ」。ブラックの珈琲だ。ここの珈琲は、殆どが小さめのカップに入ったエスプレッソ。甘党が多いこともあってか、小さなカップに砂糖が2袋、中には4袋も添えられているところもある。
珈琲を注文すると、添えられているのが小さなグラスに入ったオレンジジュースや炭酸水、そして一口サイズのクッキーなど。お店によって違いはあるけれど、他国では見ることのないなんとも嬉しいサービスだ。春先になると、テーブルと椅子が店の外にも配置され、ペット連れやタバコを吸う人にとってはありがたい。
昔ほど行く事はなくなってしまったけれど、やはり今もブエノスアイレスの街角に連なるカフェで過ごす時間は格別だ。
Text by Sachiko Takeuchi