28.Jan.2018

フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)

~ ラ・プラタの音楽家シリーズ 

フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)

 Albur(アルブール)はカルロス・アギーレやセバスティアン・マッキといったピアニストたちからアルゼンチンにおけるフォルクローレやカンシオンの伝統を引き継ぐ六重奏。基本的にはインストを貫きながら、詩心溢れる演奏で、カンシオンと目の鼻の先にあるように近くに感じられるという不思議な存在のグループだ。若きリーダーでピアニストで作曲家のフランコ・ディオニジに話を聞いた。

-「アルブール」とは聞いたことのない言葉ですが、どういう意味でしょうか。

Franco 「物事の最初の部分、あけぼの、一日の最初の光」という意味の「アルボール」という名前を当初考えていましたが、グループを続けることを考えると次第にその意味は失われていくことに気づき、「アルブール」にしました。未知の言葉でしたが、調べていくうちにまさに自分たちを表す言葉だなと思うようになりました。「アルブール」とはプロジェクトやグループに左右される幸運を指します。自分たちのヴィジョンや幸運とは音楽であり、人間を結びつけるものです。

-バンドの結成はいつで、どういう経緯でしたか?

Franco  2016年の初めにオリジナルの音楽をやるという魅力とラ・プラタという街の文化的ムーヴメントにも後押しを受けてできました。自分が持っていた考えをまとめてミュージシャンを集め、すばらしい仲間になりました。ラ・プラタに全員住んでいますが、フアナ・サリエス(ヴォーカル)はウシュアイア出身、ギド・チィアッティ(ベース)はサンタ・フェ出身、マルティン・サラベリー(クラリネット)、フアン・クルス・セラサ(クラリネット)、フアン・マヌエル・ペジサ(ドラム)はラ・プラタ出身です。

フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Guido Chiatti(Cb)
フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Juan Cruz Cerasa, Martino Salamanca, Juana Sallies(Voc)
フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Juan Cruz Cerasa, Martino Salamanca, Juana Sallies(Voc)
フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Juan Manuel Pellizza(Ds)
フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Juan Manuel Pellizza(Ds), Franco Dionigi(Pf)
フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Guido Chiatti(Cb)
フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Juana Sallies(Voc)

-多くの若いミュージシャンがいる街ですが、インスピレーションの塊のような環境にいることは大きな意味を持つでしょうね。

Franco この街には多くの音楽プロジェクトが存在し、国中から多くのミュージシャンや講師がやってきます。この環境にいれば好き嫌いに関わらず、かならず大きな影響を受けるはずで、この環境を利用しない手はありません。

-今まで魅力を感じてきた音楽を教えてください。

Franco インスト、そしてまるでフルートやクラリネットといった楽器のような歌詞のない歌に魅力を感じています。そのタイプの音楽で初めて聴いたものがペドロ・アスナールとパット・メセニーで、カルロス“・エル・ネグロ・”アギーレも道を作ってくれた音楽家です。彼の『ビオレタ』は自分の音楽を作るにあたって頭が吹き飛ぶような感覚を与えてくれたディスクになりました。
 その他にはヴェント・エン・マデイラ、エルメート・パスコアール、エドガルド・カルドーソ、アカ・セカ・トリオ、“エル・フラコ・”スピネッタ、マリオ・ラジーニャ、タチアナ・パーハ、ブラッド・メルドーなど多くあります。

 

-そのカルロス・アギーレに強い影響を受けたセバスティアン・マッキとパラナで共演されましたが、どういった時間になりましたか。

Franco 強い感動を受けた時間でした。数年前からセバ(スティアン)のルス・デ・アグアを聴いてきました。パラナへ行き、彼の前で自分たちの演奏できることほど美しい時間はなく、彼の温かなもてなしも含めて一生の宝物です。

 

-ジャンルは明確ではありませんが、名前をつけないといけないとしたらどういう名前をつけますか?ラ・プラタ音楽?

Franco ラ・プラタの音楽だとは思いません。現在では世界から音楽がやってきますし、それは莫大な世界です。そこにラテンアメリカのポピュラー音楽を加えると、ラ・プラタの音楽という文脈で語るのは難しく、多くのスタイルが外に外れてしまいます。ブラジル音楽やジャズ、カンシオンの要素を持つインスト音楽といえるでしょう。

 

-管楽器が柔らかく、浮かび上がるような音作りを与えてくれていますね。

Franco 管楽器はグループに特徴的な音作りを与えてくれるパートです。(自分が担当する)ピアノ以外の楽器であるクラリネットやヴォーカルのアレンジは面白い作業で、面白い音の層ができてきます。このフォーメーション(ピアノ、ドラム、クラリネット×2、ヴォーカル、ベース)をできるだけ維持したいと思っていて、フルートの代わりにベース・クラリネットを入れたところです。

フランコ・ディオニジ (ピアニスト/アルブール)
Sebastián Macchi & Albur

-インスト曲ながら抽象的なビジュアルや風景を感じる音楽です。何を想いながら作曲に携わっていますか?

Franco 作曲に際しては様々な感情を持って取り組みます。誰かのため、何かのために音楽をつくることは研究や、もっと理性的なものの一部です。私の先生は「音楽はどこからか出てこないといけない。作曲家というものの身体は音楽が流れ出る運河でなければならない」と言っていましたが、そういった側面が大きくあると思います。

 

-ヴォーカリストであるフアナ・サリエスの存在も強く感じられますが、スキャットが多用され、カンシオン(歌)になることはありません。歌に関してどういったビジョンを持っていますか?

Franco 歌とインスト音楽は異なる道を歩んでいます。自分たちのメロディーに歌詞をつけてしまえば異なった方法で響いてしまいます。自分の考えでは、歌には異なるアプローチが必要で、現状では1曲を除いてインスト曲のみに携わってきました。

 

-ドラムは文字通り、ドラムを触っているようで、叩くことはほとんどありません。アンビエンタルな空間を作り出すのに重要な役割を担っていると思いますが、フアン・マヌエルとはどういう話をしていますか。

Franco フアンマ(フアン・マヌエル)のような人を見つけるのは難しい作業でした。自分たちの音楽は響きやハーモニーや繊細さの探索といった時間を要するものです。彼とは多くの時間を費やしてきたこともあり、他の楽器でその音を覆ってしまっていては意味がなくなってしまいます。音楽をよく聴いていますし、提案にはよく耳を傾けてくれます。曲のベースになるというより、オーケストレーションのような役割を担ってくれるように考えています。