アルゼンチン南から届いた音楽
ネウケン発 2枚のアルバム
フリエタ・リモルディ − ネウケン州、ビジャ・ラ・アンゴストゥーラ −
「このアルバムは、新型コロナウイルスの大流行に伴いアルゼンチンで外出自粛要請が宣言されたその日にリリースされました。新しいアルバムのタイトルは現状にぴったりだと思いました。私にとっては逆にこのような状況下は好都合で、”黙示録的な”新作と十分に向き合うことができ、レビューをじっくり読む機会にも恵まれ、ラジオのインタビューに耳を傾ける時間も取れたのでありがたかったです。」フリエタ・リモルディ(1978年生まれ、ティエラ・デル・フエゴ州、ウシュアイア出身)はこのように語る。先ほど言及した世紀末的なタイトルのアルバムは彼女の3枚目のソロアルバム『セニャレス・デ・ウン・ムンド・ヌエボ』(新しい世界の兆し)のことである。フリエタはその他にも『ボイ』(2012),『ティエラ』(2008)を過去にリリースしている。
「このアルバムは、新型コロナウイルスの大流行に伴いアルゼンチンで外出自粛要請が宣言されたその日にリリースされました。新しいアルバムのタイトルは現状にぴったりだと思いました。」
フリエタ・リモルディ
遊牧民的な精神を持ちつつ、アルゼンチン南部に心を持つこの作曲家は、ちょうど外出自粛要請が発令された3月19日に出来上がったばかりのアルバムを「ストリーミング」サービスにアップロードした。
ロッジ風の建物が連なるパタゴニアの美しい街、ビジャ・ラ・アンゴストゥーラにフリエタは住居を構えている。ナウエルウアピ国立公園の周辺にはアンデス山脈、湖、森林があり、楽園のようなその土地でフリエタ・リモルディは3人の女の子(5歳と3歳の双子)を育てながら魔法のように穏やかな作品を生み出した。
『セニャレス・デ・ウン・ムンド・ヌエボ』は、ストリングスのアレンジ、エレクトロニックな風合いに80年代ポップスの特徴を組み合わせた8つの共感し合う作品で構成されている。パタゴニアの風景に囲まれながら、自らの体験を情緒豊かかつ鋭い視点で、巧みな言葉使いとメタファーを駆使して歌っている 。 作品はフリエタが住むネウケン州、ビジャ・ラ・アンゴストゥーラで本人の手によって作詞作曲、録音まで行われた。収録曲の「フォゴン」のみ、ブエノスアイレスでこのアルバムをマルコス・ロッカと共にプロデュースしたクリスティアン・バン・ラッケが作曲している。「このアルバムはテクノロジーの進歩によって物理的な距離が短縮されたと同時に音楽仲間とのつながりを改めて深く実感することができました。」とフリエタは述べている。
外出自粛の日々をフリエタはこのように語る。
「私は南部の小さな町に住んでいるので、ライブコンサート自体はそれほど日常的なことではありません。普段の音楽との関わり方は、主に歌のレッスンを行うことだったのですが、その生活が一変しました。他にも、4月にパタゴニアの森で作られる予定だったアルバムの発表を遅らせなければなりませんでした。」
~ストリーミングでのコンサートはいかがでしたか?~
「インスタグラムのライブ配信で2曲だけ歌いました。圧縮されたオーディオを電波状況が良くない小さな町で収録したので、実際に配信されたものを後から聞いて少しフラストレーションを感じました。やっぱりライブコンサートでの音楽を両手いっぱいに抱え込むようなあの豊かな体験に勝るものはないと思います。」
『セニャレス・デ・ウン・ムンド・ヌエボ』は下記のリンクから視聴可能
フリエタ・リモルディが個人的におすすめする3作品
- リンダ・パークハクス/パラレログラムス (2007) https://spoti.fi/3iggcdH
- フアン・ナサール/ イヌンダ・ラ・カサ (2019) https://spoti.fi/38cMZfl
- ルーカス・ジオッタ/ ルンボ・アル・ソル (2018) https://lucasgiotta.bandcamp.com/album/rumbo-al-sol
アナイ・ラジェン・マリルアン − ネウケン州、バリローチェ −
素晴らしい光景だった。 背後に広がる広大な大自然を前に、1人の女性がマプチェ族が使用する伝統打楽器「クルトゥラン」を響かせた。 歌い手の名前はアナイ・ラジェン・マリルアン。その美しき地平線は彼女が翼を広げ自由に暮らすバロリーチェという町で、パタゴニア州ネウケンにある観光客が最も多く訪れる都市の一つとして知られている。 アナイの音楽の特徴の一つが、マプチェ族の言語である「マプチェ語」が歌詞に多用されていることだ。それだけでなく、彼女の作品は伝統音楽と現代音楽のサウンドを融合させている点もあげられる。
彼女の最新作は女性へのオマージュがテーマだ。アナイは次のように述べている。
「4作目のアルバムは『Futrakecheyem zomo』という名前で、マプチェ語で<祖先>という意味です。アルバムには祖先のことやその生まれ変わりなど、過去から未来へと繋ぐ虹を思い描きました。9曲が収録され、ギタリストのレオポルド・カラコチェと一緒に演奏するトリオのメンバーである、ピアニストのナタリア・カベジョに参加していただきました。」
「この孤独な状況下において、私たち女性自身が一人一人エンパワーメントを高め、目の前の課題に向き合う必要性があることを実感しています。」
アナイ・ラジェン・マリルアン
アナイ・ラジェン・マリルアンは過去に『Kisulelaiñ(1人ではない)』(2015)、『Amulepe Taiñ purrun(我々の踊りが続くように)』 (2016)と 『Mankewenüy”(コンドルの友人)』(2018)の3枚のアルバムをリリースしている。ソロで活動する前は、「Tamborelá」(太鼓を手に持った女性という意味)というグループで2005年と2009年に2枚のアルバムを発表している。その後、さらに多くの事に関心を持つようになり、「カントス・デ・ラ・メモリア – カントス・コン・センティード」(2008)というネウケン北部の山脈地帯に栄える伝統音楽の歌い手たちを取り上げたドキュメンタリー作品を制作したり、フリエタ・メディナと共にアメリカ大陸全土で楽器が作られていった工程を段階的に解説した「インストゥルメントス・デ・バーロ –ティエラ・ケ・カンタ」(CD+本、2012)を発表している。
この外出自粛令が発動されている中、「アルヘンティーナ・カンタ」キャンペーンで、かの伝説的歌手メルセデス・ソーサが歌ったことで有名となった「サンバ・パラ・ノ・モリール」を歌う動画に参加しましたがいかがでしたか?
「これまでにアルゼンチンやチリのマプチェ族に向けたものや、ニューヨークにあるラテンアメリカのワークショップ等でインターネット上で配信コンサートを行っていたのですが、それがきっかけで様々なインタビューや取材を受けました。ストリーミング方式での発信には私自身も発見があり、インスタグラムを通してコミュニケーションを取るなど、新たな創作活動の場となっています。」
–自宅待機が強いられる日々が続いていますがどのように感じていますか?
「この孤独な状況下において、私たち女性自身が一人一人エンパワーメントを高め、目の前の課題に向き合う必要性があることを実感しています。」
–そのほかにはどのような学びがありましたか?
「舞台に立つ人間として、同じような志を持つ人々同士で助け合い団結することで大きな力になると思っています。これからもクルトゥランを手に、ひたすら歌い続けていくつもりです。」
『Futrakecheyem zomo』は下記のリンクでから視聴可能。