10.Mar.2020

カンデラリア・サマール

By Gustavo Álvarez Núñez (@ganposta)

カンデラリア・サマール
Photo by Cecilia Armand Ugon (@polcapolca)

カンデラリア・サマール(1986)。彼女は一体どんな娘なのだろう。コルドバで生まれ、数年前からブエノスアイレスで活動する彼女は、たった2枚のアルバムだけでアーティストとしての成熟度を世に知らしめた。

2019年、彼女はいくつかの忘れがたい経験をした。まず、繊細かつ輝きに満ちた2作目「Una linterna(ウナ・リンテルナ)」(インディーズ)がリリースされた。また、ロラパルーザ国際音楽フェスティバルやコロン劇場で行われたグスタボ・セラティの追悼リサイタルに参加し、「エンガーニャ」を披露。そして、その様子が雑誌「エスタ・ビーダ・ノー・オートラ」の創刊号を飾ったのだ。

28ページから構成されるこの雑誌をめくると、音楽家であり作家のフェルナンド・サマレアの略歴が載っている。チャーリー・ガルシアやグスタボ・セラティ等のドラマーを務めた彼が、この美しき作曲家、歌手そしてピアニストでもある彼女に向けて、心の込もったメッセージを寄稿している。「どのようなことが起こるのかわかっていた。CCKのドームに入るやいなやコンサートが始まり、薄暗がりの中で夢中になった。そこには白い衣装に身を包み、ハリウッド女優のごとく優雅で、光り輝くカンデラリアがいた。音楽によって観客との距離が縮まる様子を身をもって体感した。」と。

そう、起こるべくして起こるのだ。彼女自身と彼女の音楽から解き放たれる魅力は、細い糸をたぐるように様々なアーティストへと繋がっていった。ウルグアイのホルヘ・ドレクスレルは自宅から程近いコルドバの街で開かれたコンサートに彼女を招待した。また、彼女のデビュー作「ウン・バソ・デ・アグア」(ディスコス・デル・ボスケ、2014)は反響を呼び、匿名のミュージシャンたちによってエレクトロニックな風合いが押し出されたアルバム「ラ・パトタ・センティメンタル」としてカバーされのである。

その前後に、カンデラリアはインディーで活躍する様々なアルゼンチンのミュージシャンの作品に参加していた。ロリ・モリーナ・イ・ス・ルビ (Ropeadope Sur, 2015)、ルカス・マルティのプロジェクト「V.A.:プレシオン・ソシアル」 (Geiser Discos / Pop Art Discos, 2015)、ゴンサロ・アロラス・イ・ス・ディヒタル(Spinoza Producciones, 2017) 、EP盤ロサル「テ・アクラデスコ・エル・アモール」 (PopArt Discos 2018)。そうこうしている間に、彼女はギド・モレッティとロ・スタンブクをプロデュースに迎えたシングル「エンシエンデ」を発表している。

カンデラリア・サマール
Photo by Cecilia Armand Ugon (@polcapolca)

幼少の頃、カンデラリアはピアノに没頭する日々を過ごしていた。当時彼女は、カエターノ・ヴェローゾ、エリス・レジーナ、エル・ドゥオ・サルテーニョ、カーペンターズ、レ・ルティエルスなど、両親のレコードをよく聴いていたそうだ。また、コルドバで名の知れた音楽学校であるラ・コルメーナで作曲を学んでもいた。

様々な作品に触れる中で、彼女はルイス・アルベルト・スピネッタの作品に傾倒していった。それに関係しているのか、彼女のデビューアルバムである「ウン・バソ・デ・アグア」には、スピネッタの最後のキーボード奏者であるクラウディオ・カルドーネが参加している。

彼女の作風の顕著な特徴として、冒険心が挙げられるだろう。彼女の音楽はジャズ、現代音楽、ポップスからフォルクローレまであらゆるジャンルの垣根を越えた作品となっている。これは最新アルバム「ウナ・リンテルナ」に収録された「キエン」でも顕著で、電子音とコーラスという斬新な組み合わせにも見て取れる。

「先日リリースされたニューアルバム「ウナ・リンテルナ」について、たくさんの人々から作品の感想をいただき、本当に嬉しく思います。」カンデラリア・サマールはそう述べる。このアルバムはまもなく日本でも発売が開始される。それに伴い、デビュー作の「ウン・バソ・デ・アグア」も改めてぜひ聴いていただきたい。ただ純粋なだけでなく、深みもあるが決して重くない、透き通るような憂いを帯びた作品である。

カンデラリア・サマールの作品はこちらから試聴できる:https://open.spotify.com/artist/5CvtChuDVlejwaMPQb9Sx1

カンデラリア・サマール