18.May.2020

ポル・ナダ:エントレ・リオスの愛しき詩篇

文:グスタボ・アルバレス・ ヌニェス

ポル・ナダ:エントレ・リオスの愛しき詩篇
Photo by Elbio Barchiesi

アメリカ大陸には多種多様な文化が溢れているが、それを反映するかのように広範な芸術的表現が生まれた。 音楽も例外ではなく、その地域特有の個性を持ち、悲しみや不条理、喜びや希望など人々のあらゆる感情が込められた作品が誕生した。

近年、デジタル機器や電子楽器の出現により、音楽シーンにおいて新たな試みがなされた作品が見られるようになった。 このように、ミュージシャンの中には数ある表現手法の氷山の一角である、エレクトロニクスとフォルクローレの要素を交え、新たな表現手法を使って作品を作る人が出てきた。

伝統音楽と電子音を組み合わせた手法はエクアドルから南米最南端まで、新たなムーブメントを巻き起こした。その流れを象徴するように生まれたのがクンビアや民族音楽と電子音楽を融合させたレーベル、ZZK Recordsである。

このレーベルの中で確固たる地位を確立したのがアルゼンチンのペドロ・カナーレ率いるチャンチャ・ビア・シルクイートだ。彼が発表した『キメイ・ネウケン』のホセ・ララルデによるリミックス版は、アメリカの人気ドラマ、ブレイキング・バッドで使用され、国際的にも高い評価を得ている。

このような動きの中で、2017年にはアルバム『ラ・サン・ジャマラダ』がエントレ・リオス出身のポル・ナダ(本名パブロ・ハコボ、1977年生まれ)によって発表された。どのような作品かって?かの有名なアタウアルパ・ユパンキとリナレス・カルドーソの8作品を21世紀の鍵となる新しい解釈で演奏したものだ。

ポル・ナダ:エントレ・リオスの愛しき詩篇

この8つの作品にはデジタル・ダブの要素を取り入れており、それがこの作品の突出した点である。この手法はパラナ川、山の静寂さ、夜の闇の深さ、自然の雄大さや慎ましい人々の暮らしなど、その情景を描くことに大いに役立った。

この作品のプロデューサーは誰かって? ポル・ナダ本人だ。作品の出来としてはエレクトロ・フォルクローレは素晴らしく、まるで夢のような世界で、それは愛らしい詩篇のようなものだった。

川の支流や密林の空気をまとったエレクトロなビーツとチャマリータ、チャマメ、バルセアード、ミロンガにタンギート・モンティエレロなどエントレ・リオスのリズムを合わせることで、アルバム『ラ・サン・ジャマラダ』は金銀細工のように繊細で、愛のこもった再構築がなされたのだ。

カルドーソと同じく、ラ・パス(エントレ・リオスの北部)で生まれたポル・ナダは以前はロサリオ(サンタ・フェの都市)に拠点を持っていたが、6年前からブエノスアイレスで暮らしている。これまでに6枚のアルバムの他に、アルゼンチンのロックミュージシャンの頂点に立つパトリシオ・レイ・イ・スス・レドンディートス・デ・リコタとともにスペイン風のギターと柔和な歌声で録音したEP(2011)を発表している。

その他にも、作曲家およびプロデューサーとして、メキシコのナタリア・ラフォルカデ、ベネズエラのエクトル・カスティージョ、アルゼンチンのトゥイーティー・ゴンサレスとマリアーノ・ドミンゲス(イリャ・クリャキ・アンド・ザ・バルデラマス)、メキシコのフアン・マヌエル・トレブランカなど、著名なアーティストと共演している。

2019年末にポル・ナダはアルバム『ラ・サン・ジャマラダ』のツアーでヨーロッパ各地を周遊していた。ライヴでは、サイケデリックなリズムに暗雲なフォルクローレとエレクトロニックな要素を織り交ぜた世界観を構築していた。どんな楽器を使っていたか? ギター、シンセサイザー、パーカッションやバロック風の歌声など、それはバラエティに富んでいた。

ポル・ナダ:エントレ・リオスの愛しき詩篇
Photo by Pablo Lescano

昨年の2月中旬ごろ、ポル・ナダは生まれ故郷のラ・パスの広場で多くの観客で賑わったコンサートを開き、何人かのコーラスとともに敬愛するリナレス・カルドーソの楽曲を披露した。そこでは、異なる時代に生まれた人々が同じ曲によって繋がり、ある種の一体感が生まれた。

変化があるからこそ、輝き続け生き続けるのだろう。ポル・ナダもそのことに気がついていたに違いない…

https://open.spotify.com/artist/1Dts5QEWhfTgrZvDBEdNUH

Main photo by Ancherama

ポル・ナダ:エントレ・リオスの愛しき詩篇