レジャーフィッシングの王様ペヘレイ
ウィルマル・メリーノ
ペヘレイは、間違いなくアルゼンチンの釣り人に最も釣られている魚類です。ラプラタ川から、冬場における上流への移動によるパラナ、ウルグアイ川の中流部まで、大西洋からブエノスアイレス州、コルドバ州、サンルイス州、クージョ地域のダム、さらにパタゴニアまで、広範囲で釣ることができ、また、スポーツ・フィッシングの対象や食用としての優れた特性などから、人々から最も好まれている釣獲対象魚となっています。
ボナエレンセ・ペヘレイ(odonthestes bonariensis)の全ての種が、海の入り江を好む同類の海水魚「エスカルドン・ペヘレイ」の遠い祖先から進化したとされています。寒い時期には、ラプラタ川流域の現ペヘレイは、河口周辺(ラプラタ川と大西洋の塩水が混ざった場所)を離れ、ラプラタ川に散在し、産卵するためにリトラル地域の大河川を上ります。従って、漁期は、4月末又は5月初めから10月末までと、この繁殖移動によって限定されています。
ペヘレイの遡上は、淡水よりも塩分濃度が高い海水のくさびを利用して行われるため、最初に、土砂が多いアルゼンチン側のラプラタ川沿岸と異なり、白い砂があるウルグアイ側の沿岸(パラナ川からの砂質堆積物を受けるため)に現れます。このため、澄んだ水を好むペヘレイが、冬の霜で浮遊堆積物が沈殿した後、川の中央部からブエノスアイレス岸側に移動してくるまで待たなければいけません。
6月には既に漁最盛期にあると言えます。技術的な面について、釣りは黒鉛、カーボン、その他軽い材質製の(長い竿を常に握って釣る必要性から)、3.60m~4.50mの長い釣竿を用いて行います。竿の長さは、アルゼンチンの釣り人がペヘレイ釣りに 0.60mから 1.40m離したウキを3~5個付けた長い釣り糸を使用することを好むことに関係しています。これらの仕掛けは、この釣りの最大の魅力を大いに楽しむことができるようにします:ペヘレイの機嫌によって、ウキを軽く動かすか、強く沈めるかなど、ウキから掛りが観察でき、釣り人が常に注意を図って逃がす前にタイムリーに操作することを余儀なくします。
通常、淡水ペヘレイは水面から数センチの深さで掛り、伝統的なモハラ(主要なエサ)から、他魚類の切り身(ディエントゥード、イワシ等)、ミミズ、「イソカ」と称する蝶の幼虫、ハエの幼虫まで、様々なエサで掛ります。産卵のために入るデルタ地帯の大河川では、乗船して、或いは岸壁に沿って建設された釣り桟橋から、仕掛けを桟橋から離し、川の中央部まで遠投するための飛ばしウキ(重量がある比較的大きいウキ)を釣り糸に付けて、ラプラタ川で用いる同じ漁具を使用します。ここでは、川の下流方向に糸を流して釣りを行います。
広い河川では(ラプラタ川、ウルグアイ川等)、魚の油脂をベースとした集魚剤がより一般的な手法です。船に結び付けられた魚の油脂の点滴が漏れるように、小さい穴を開けたプラスチック容器を川に投げ込み、臭いでペヘレイを誘う「集魚剤の道」と称する油の薄い膜を水面に形成します。この道に沿って、食い込みを表示するまでウキを漂流させ、操作します。
ペヘレイ釣りに使用するウキの材質は様々で、プラスチックから発砲スチロールのものまで、様々なウキが存在します。最も高品質のものはバルサ材ですが、複数の塗膜と職人の手作業を要するため、とても高価なものとなります。
ペヘレイは、その肉質の良さから人々に非常に好まれている魚であるため、漁獲による強力なプレッシャーを受けており、生息する湖があるアルゼンチンの最低5つの州における代表的な名物料理になっています。幸い60年代から、アルゼンチンと日本の技術者による協力事業の成果として、チャスコムス陸水生物研究所にてペヘレイの養殖技術が開発され、遺伝的良質の親魚から増養殖に成功し、産卵制御によってブエノスアイレス州の他、湖が存在する約600カ所に加え、他の国の湖にまで放流する数百万のペヘレイの稚魚の生産ができるようになりました。
本種の主な栄養源は、鰓から濾過する動物プランクトンですが、釣り人は、低温によってプランクトンが減少した時に、喜んで食い付く代わりのエサで誘います。このため、年中生息する湖においても、寒い月には、ペヘレイの掛りが増強します。本件について、チャスコムス陸水生物研究所のGustavo BERAZAIN氏は、「動物プランクトンと微細藻類がペヘレイの主要天然栄養源であるため、湖にはペヘレイが存在しなくて釣りができないと主張する人が多いですが、実際は健全なペヘレイが間違いなく存在しています」と、説明しています。
回遊魚であるラプラタ川流域のペヘレイと異なり、湖のペヘレイは定住型で、かつエサを食べる際にもより選択的であり、非常に用心深く食い付きます。この場合、例えば、湖沼地帯で有効となる淡水エビなど、生息する環境でしか入手できないエサで誘うことが解決策となり得ます。
ペヘレイの喉には、海水魚としての痕跡器官である貝殻を破砕するために使用されていた小さな骨のプレートが残っています。このほか、この魚が有する「海の香り」も、海水魚の祖先を示す点です。
大型の魚ではないにも拘わらず(「トロフィー」とされる魚は、1.5キロを超過することは滅多にない)、ペヘレイは、私たちが幼い頃、ウキが沈むのを見ながら魚釣りを覚えたことを思い出させてくれ、アルゼンチンの多くの釣り愛好者を魅了する魚類です。国内で釣れた最も大きな魚は3キロもの個体で、サンフアン州のコスタ・デル・ビエントと称するダムで釣れました。
しかしながら、地場産業を導引する(釣り道具店、釣りガイド、宿泊施設、キャンプ場等)ペヘレイ釣りの拠点は、ブエノスアイレス州とアルゼンチンの首都にあります。新型コロナウイルスによる外出禁止措置が解除されれば、ラプラタ川では漁獲枠が設定されていないため、秋から冬の終わりまで、ラプラタ川のティグレからプンタ・インディオの区間において、多くの釣りガイドのサービスによる、5人まで乗船できるボートでのフィッシング・ツアーに参加し、望むだけの尾数を持ち帰ることができます。他方、ブエノスアイレス州の湖の規定によれば、一般的に持ち帰りができる尾数は、最低25㎝以上の個体、25匹までに制限されています。1日も早い外出禁止措置の解除を願わずにはいれません。