18.Sep.2017

クジラの町

プエルト・ピラミデス

 私が初めてプエルト・ピラミデスを訪れたのは、1999年に世界自然遺産と登録されたバルデス半島を取材するためだった。

 アルゼンチン南東部、大西洋に突き出すバルデス半島は、ミナミゾウアザラシやアシカの仲間のオタリア、マゼランペンギン、乱獲により数を減らしたミナミセミクジラなどの海洋生物が保護され、集団で暮らしていける場所。バルデス半島内にあるプエルト・ピラミデスは、アルゼンチンでクジラと遭遇できる唯一の場所でもある。

 毎年、南極周辺で夏を過ごしたミナミセミクジラが、冬にかけて半島の温暖な入り江に帰ってくる。半島にある2つの湾は、浅く穏やかで、餌に恵まれているため、南半球最大の繁殖地となっている。プエルト・ピラミデスが位置するヌエボ湾には、6月から12月に当たってミナミセミクジラが交尾と子育て期のために集まってくる。

クジラの町
© HECTOR CASIN

 この町は人口650人の小さな町で、静かで透明な美しい海とビーチがあり、クジラの来訪と共に国内そして海外からも観光客が訪れる。ヌエボ湾を巡るホエール(くじら)ウォッチングの遊覧ボートには子供から年配の人達で大変賑やかになり、潮を吹き上げるミナミセミクジラの姿を間近から観察することができる。子育ての時期は、お母さんクジラと赤ちゃん、また子供と一緒に遊んでいる風景なども見かけられ、こうしてプエルト・ピラミデスは、大きな「クジラの保育園」にもなっている。

クジラの町
●驚きのパフォーマンス

 50トン、15m前後の巨体は、観光客を前に、ダイナミックなジャンプを繰り返す。好奇心旺盛なため、自ら船に近づき、観光客の手と触れ合う光景もしばしば見かけられる。

 大ジャンプ、「ブリーチング」の意味は、①雌への求愛行動 ②体の寄生虫を落とすため ③雄クジラ同士の威嚇など、諸説あると言われている。さらに、スパイのように海面から顔を出す、「スパイホッピング」という不思議な行動もここでは毎日の光景。水中で「鳴き声」を使って交信するクジラたちが断続的なリズムを繰り返す。その意味は、鳥影や陸の形状を見て自らの居場所を確かめているともいわれている。

クジラの町
© HECTOR CASIN

 時々この鳴き声は夜も続き、星空が降ってくる空の下で、クジラたちが遊んでいるのが見かけられる。これはこの町に住む人々たちの特権でもあり、ここに集まってくる人たちは動物を愛しクジラを愛する人たち、そしてクジラは彼らに毎日素晴らしいジャンプや動きを披露している。プエルト・ピラミデスは、まさに魔法にかかった町である。

 

 

アクセス:
プエルト・マドリンまたはトレレウという街へブエノスアイレスから空路で約1時間半〜2時間程度。
そこから車でプエルト・マドリンから約100㎞(約1h15`)、トレレウから160㎞(1h45`)
プエルト・マドリンからは、毎日バス会社のMar y Valle(出発9時45分 帰り18時)が運行

プエルト・ピラミデスは、バルデス半島自然保護地区内にある。

バルデス半島公式HP 入園料
https://peninsulavaldes.org.ar/tarifas/

プエルト・ピラミデス公式HP
http://www.puertopiramides.gov.ar/index.html

お勧めの宿:HOTEL DEL NOMADE HISTORIA
アットホームな暖かさのあるプチホテル。アメニティーは全てオーガニック製品を使用した、最近流行りのエコ・フレンドリーホテル。規模は小さいが、全体的にとてもお洒落。英語を話すとても親切な二人の女性が朝食をすべて作ってくれる。夜、部屋からクジラの鳴き声が聞こえるのもこのホテルの魅力の一つ。
ホームページ
https://ecohosteria.com.ar/

 

小木曽モニカ
アルゼンチン・ブエノスアイレス州生まれ日系2世。ブエノスアイレス在住。モンチメディア代表。取材・撮影コーディネーター、翻訳家。サルバドール大学で観光学卒、大阪外国語大学に留学。アルゼンチン政府公認旅行免許取得し、アジア専門旅行会社で日本行きのパッケージツアーを作成・販売担当。日本に関するイベントのプランニングや企画も行う。パンアメリカン日系人協会(カナダからアルゼンチンまで含まれる日系人のネットワーク)理事やアルゼンチン日系センター会長を務める。
Email: monchikogiso@gmail.com