14.May.2018

チャグアール ~ 夢を紡ぐウィチ族の織物

 現実と想像が入り混じる―アルゼンチン北部のチャコと呼ばれる山岳地帯にはウィチという先住民のコミュニティーが居住している。彼らは自生の植物から糸を紡いで作られるチャグアールという驚くべき織物を製作している。

 アルゼンチンには未知のコミュニティーが多く存在し、彼らの多くは地図上で定められた境とはまさに一線を画していくつかの州にまたがって生活している。乾燥した山岳地帯という険しい自然状況の中では、州境というよりも土地の性質に従って生活する方が理にかなっているのは当然のことだ。

 アルゼンチン北部のフォルモサ州、チャコ、サルタ州東部、サンティアゴ・デ・エステロ州、サンタフェ州北部、トゥクマン州、コルドバ州にまたがるチャコと呼ばれる広範な山岳地帯がある。この地域には様々なコミュニティーが居住しており、チャコ中央部から南部にかけて90年代までマタコと呼ばれ、現在では名前を変えてウィチと呼ばれる民族が住んでいる。ウィチとは「人々」もしくば「村」を意味する。

 ウィチ族の活動の中で知られているものがチャグアールと呼ばれる織物だ。パイナップルに近い植物から取られる糸を紡いで作られる。この植物の最も特徴的な点としては栽培されるものではないということ。アルゼンチン、パラグアイ、ボリビアにまたがるチャコの乾燥した気候において、森の中の日陰に野生で育つということだ。

 狩猟時代から使われ続けているその繊維は強く、服やバッグはもちろん、ポンチョ、網、紐といった日用品としても用いられている。かつてはチャグアールを編んでいたのは男性で、漁業用が主だったが、現在では専ら女性が主流となっている。女性たちは少人数のグループを組んで山へ採集に行き、そのまま織物の製作にも携わっている。

 採集から製造までのプロセスにおいて多くの時間を要する。生存のために必要最低限以上のものを森から採ることはタブー視され、過剰な消費は処罰の対象にもなっている。このタブーは採集、狩猟、漁業を行う許可を請う地の主から与えられるものとされて、主は自己中心的な行動を慎み、必要以上の採集を戒める意味でも大きな役割を果たしている。

 ソフィア・ウランガさんは30年以上前からブエノスアイレスからこの地域に位置するミシオン・ラ・パスを訪れている。当時は住人は貧困に苦しみ、どうすればこの問題を解決できるか住人たちとの相談の結果、手作りの民芸品の販売を開始することになった。

 数年後、彼らの援助機関である非営利団体シラタフー(Silataj)を設立。ウィチによる自己経営を支え、販売網を着実に広げ、生活水準の向上、社会・経済発展支援に寄与してきた。

 チャグアールの繊維を紡ぐまでの過程:

  1. 採集:女性たちが主体となって森へと入る。葉にはとげがあるので、棒を使って植物を取る。繊維の除去は翌日乾いてしまう前にすぐに行う必要がある。
  2. 繊維の除去:葉を選び、とげのある表面を取り除く。チャグアールは繊維と別々にされる。(下記写真:Limpieza)
  3. ゴム質の除去:繊維を叩き、植物の果肉部分を取り、不純物が消えるまで葉をこする。(Machacado)
  4. 漂白:きれいな繊維を水にぬらし、日干しする。日が強ければ強いほど繊維は白くなる。(Secado)
  5. 紐の製作:女性たちは太さの違う繊維をひとつひとつ分ける。糸は二つの部分に分かれる、繊維の使用量は太さによって選別されるが、4つの繊維に少なくとも分かれている必要がある。その後、灰を練りこみながら捻じ曲げていき、強い繊維の糸を作っていく。一時間あたり、60メートルを作ることができると言われている。(Confección del hilado)
  6. 染色:チャグアールは乾燥後透明に近い緑になるため、色でデザインを作る場合は色づけする必要がある。人工の染料は用いられず、果実、樹皮、根、すすといった自然原料からとられる。黄土色、黒、茶色が伝統的だがオレンジや赤、紫、青も使用される。(Teñido)
  7. 織り:この全ての過程を経てから織りにとりかかることができる。四角のフレームを使って全てが一点ものというこの民族を代表する手芸品だ。
チャグアール ~ 夢を紡ぐウィチ族の織物