ガウチョ伝統祭り
San Antonio de Areco
またこの季節がやって来た。「Fiesta Nacional de la Tradición」。ガウチョと馬の伝統的なお祭りだ。ガウチョとはカウボーイの事なのだが、何となくカウボーイとは呼ぶのには抵抗を感じてしまう。彼らは、アルゼンチンの文化と伝統の一部なのだ。
このお祭りが開催されるサン アントニオ デ アレコは、ブエノスアイレス市から北西に約110 km、車で1時間40分ほどの所にある周りをパンパの草原に囲まれた小さな街だ。ここで年に1度11月に行われるこのお祭りには毎年2万人を超える参加者があり、アレコの街が人と馬で溢れかえり大いに賑わうのである。最初に開催された1939年から、昨年でちょうど80年を迎えるそうだ。昨年の祭りは11月8日金曜日に始まり、翌々日の日曜日まで続けられた。
私達は、日曜日にクリオージョ公園で行われる馬の競技を見るため、車でブエノスアイレス市を出発した。高速道路は次第に幅が狭まり、ビルが消え、窓の外にはゆったりとした緑の草原が広がり、そこ、ここに草を食んでる牛の姿が見える。市内を少し出ただけでこの景色。今更ながらアルゼンチンの土地の広さを感じてしまう。
無事サン アントニオ デ アレコの街に到着。途端に馬の姿が目に飛び込んでくる。それだけで、もう私のテンションはバリバリに上ってしまう。普段、こんなに沢山の馬をこれだけ間近に目にする事なんてないのだから、当たり前といえば当たり前なのである。
つい先ほどまで街の中心部にあるアレジャーノ広場で行われていたパレードから、続々と移動してくる馬とガウチョ。とにかくカッコいい! サン アントニオ デ アレコの街は馬具や銀製品を作る工房がとても多い。そのためか多くの馬が、きらびやかな銀の飾りや馬具を纏いオシャレに着飾っている。なんと、誇らしげに歩いているのだろう。思わずため息が出てしまう。
一昨年は、アレジャーノ広場で行われたパレードだけを見た。遠方から参加の馬とガウチョも多く、サルタ特有のポンチョを身に纏ったガウチョとお洒落に着飾った馬の登場の時には、会場から大きな拍手が沸き起こっていた。余談になるが、このポンチョも相当な歴史があり、地方によって素材や柄が替わる。防寒や雨具としても用いられ、ガウチョにとって欠かせない必要アイテムの一つだ。これもまた、アルゼンチンの大切な文化と伝統なのである。
さて、パレードの話に戻ろう。街中で行われるパレードもなかなか見応えのあるものだが、今回のクリオージョ公園でのパレードは圧巻だった。何が違うのか、と考えてみた。絶対的な違いは、舗装されたコンクリートの上を歩く馬と土の上を歩く馬。蹄の音が全く違う。馬が走る。風が過ぎる。土埃が舞う。心なしか、馬の表情さえ違っているように思えた。
パレードの先頭はアルゼンチン国旗を掲げて登場した、80歳を迎えようとしているサン アントニオ デ アレコの老ガウチョ、オスカル「モスコ」ペレイラ。 彼だ! 数年前、閑散期のアレコのエスタンシア(牧場)に一泊で遊びに行った際、3組の客しかいなかった夜の食堂で、静かにギターを弾きながら歌ってくれた彼に間違いない。味のある素晴らしい歌と演奏だったことを覚えている。元気な姿を見られたことを心から喜び、拍手を送った。その場にいた誰もが大きな拍手を送っていた。
いよいよ、競技が始まった。十数頭の馬が一人のガウチョの先導によって指示通り一斉に動く。まるで映画でも見ている様だ。アルゼンチンの馬の調教は世界でもトップクラスだと聞いているが、それも素直に頷けるほどとにかく優雅で美しい。最後に競技に出場した全員、全頭が公園内を思い思いに駆け回った時には、鳥肌が立ってしまった。他にもロデオ競技等があり生で見るのは初めてのことだったので、その迫力にこれまた大いに盛り上がった。
会場には、馬具などを売るテントが立ち並び、また傍らではアサードを焼いて売っている店もあった。そして、そこここに普通に馬も繋がれていて、お尻をパンパン!と簡単にタッチできたりする。お祭りでありながらのんびりした気分を味わえる、とても魅力的なお祭りなのだ。馬とガウチョ万歳! 今年の11月のお祭りが今から待ち遠しい。